ナラティヴとは何?(一分間アンサー)

今回はエリック・スウェーン(1999)がナラティブ・セラピーを簡潔にまとめた説明を紹介し、ジェラルド・モンク(1996)がナラティブ・セラピーにおける心理療法作業について書いていますので、それを紹介します。

 

The one-minute question: What is narrative therapy? Some working answers

By Erik Sween

2009-05-14_0943

ナラティブ・セラピーについてプレゼンテーションをすると次のようなことはよくあるシナリオです。善良な人が「ナラティブ・セラピーってなんですか。」と質問し、手短な答えを期待するかのように時計を一瞥します。私が思うに、これはどのナラティブ・セラピストが直面するジレンマです。

一分間で答えられるような答えはありませんが、挑戦してみたいと思います。普通の人が使う言葉で私がしていることを説明できるでしょうか。専門家でない人でも理解できるような用語を用いることが出来るでしょうか。このようなことはナラティブの事についてあまりなじみが無い方に提示することは価値の有ることだと感じています。ですので、ここに私の一分間質問に対する回答の試みを書きます。それぞれの回答はそれぞれ独立しています。複数の答えは違った時間、違った人に対して用意されています。状況に応じて使い分けて下さい。順番は任意で重要性を示すものでは有りません。

 

1) ナラティブ・セラピーが一つのスローガンを持っているとすれば、それは次のようなものになるでしょう。「人が問題ではなく、問題が問題である。”The person is never the problem, the problem is the problem.”」このフレーズは、その人の状況に関わらず、その人の重要性を捕えます。ナラティブ・セラピーは人の人生を形作る瞬間瞬間を、ターニングポイントを、キーとなる関係を、そして、時によって色あせていない特別な記憶を探求することです。焦点となるのは、いろいろうまくいっていないことが有るにも関わらず、その人の人生を導く意図、夢、価値観を引きだすことです。時々、その過程で忘れ去られていた能力や英雄的資質について語られている驚くべき話しを思い出させることが出来ます。

2) どのようなタイプのサイコセラピーもそれぞれ異なる人生の側面を示します。例えば、行動療法(behavioural therapy)は行動に焦点を当て、認知療法(cognitive therapy)は正確な考え方に焦点を当て、システム・セラピーは基本的な単位として家族の相互作用に焦点を当てます。同様に、ナラティブ・セラピーは経験の基本単位として物語(story)を取り上げます。物語はどのように人が行動し、考え、感じ、新しい経験を理解するのかを導いてくれます。物語は人の人生の情報をまとめていきます。ナラティブ・セラピーはこのような重要な物語をどのようにして書かれており、書き換えられるかに焦点を当てます。

3) ナラティブ・セラピーは、カメラにレンズがついているように人々が特定の物語をもって自分自身を見ていると考えます。このような物語は人々の経験を選別する効果を持ちますので、どの情報に焦点を当てて、どの情報に焦点を当てないかを選択します。物語は自分の人生、過去、未来に対する見通し(perspectives)を形作ります。矛盾した情報にも関わらず、本人(アイデンティティ)の物語は驚くべく程に一定しています。ナラティブ・セラピーはカメラのレンズを再調整し、人の人生の物語を再形成の手伝いをする手段を提供します。

4) 人間は避けがたく意味をつくっていく存在(meaning makers)です。私たちは経験し、それに対して意味付けをします。太古の昔、キャンプファイヤーの周りで過ごした時代から、私たちは物語を語ってきました。物語は、私たちの経験で得た意味を伝えるのにいちばんなじみ深い方法です。ナラティブ・セラピーは私たちが生きてきた物語に関心を寄せます。これらの物語は私たちが誰で、何が重要であるかについて私たちが持っているものです。ナラティブ・セラピーはこのような物語を見出し、理解し、再度語っていきます。

5) 心理学及び心理療法の形態の多くは、個人の変遷を非常に強調します。このようにして、個人個人は自身の内面の世界を自身の手で作り上げていくように信じられています。ナラティブ・セラピーはこのような概念とは対比をなしています。ナラティブ・セラピーは、個人のアイデンティティは、他の人々および自分の過去や文化の関係から共に創られていくと考えます。ですから、特定の方法で人々から見られているということは、その方法で自分自身を見ることにつながっていきます。他の人々が私たちを見るときの鏡を通じて、自分自身を見るようになります。このようにして、人のアイデンティティは、社会的に構築されてると言われます。ナラティブ・セラピーは、社会的に構築されたアイデンティティがどの程度その人に妥当なものかに焦点を当てます。

6) ナラティブ・セラピーは人の人生を形作る物語やテーマを理解することから成ります。人の人生上の経験で何がいちばん意味深いでしょうか。どのような選択、意図、関係が重要でしょうか。ナラティブ・セラピーは、より大きな物語の一部であるこのような経験が人の生きた経験に大きなインパクトを与えると考えます。よって、ナラティブ・セラピーは人の人生をつなげる筋に焦点を当てます。

7) 人の人生は、目に見えない物語の章によって交差しています。このような目に見えない物語の章は、人生を形作るうえで大きな力が有ります。ナラティブ・セラピーはこのような物語の章を引きだし、拡大することです。使われる質問は、人の人生においていちばん意義の有ることについて焦点を当てます。質問の一般的な内容は、意図、影響力のある関係、ターニングポイント、貴重な思い出、そして、これらがどのようにして関連しているかです。

8) …

明らかに、このリストを続けることが出来ます。私が考えている答えもあります。最後の番号の内容が空白なのは、作業進行中を示すのと、その他のいろいろな答えの可能性を示すためです。私は一つの定義やすべての人の心に訴えることができる回答を求めるのでもないので、初頭の質問をいつも問い掛けています。専門用語使うことなくこのような考えを述べたり、ナラティブ・セラピスト以外の人々にも伝えていくことは試みで有り続けます。この時、私の論文の先生からの言葉をいつも思い出します。「あなたの祖母に3つの文でこの考えを説明できないならば、この考えはあなたの中で十分に明確には成っていません。」

(c) Erik Sween 1999. All rights reserved.

Sween, E. (1999). The One Minute Question: What is narrative therapy? Some working answers. Available http: Hostname: http://narrativespace.com/sween.html