『子どものこころを見つめて−臨床の真髄を語る』

『子どものこころを見つめて−臨床の真髄を語る』

小倉清(著), 村田豊久(著), 小林隆児(著)

語るべき人たちが語るべきこと

発達障碍のこと、DSMのこと、診断のことなど、それを主な職業としている人たちが言わないといけないことがあると思う。

たとえば、臨床心理士のことはまわりの職種からの批判を聞くのではなく、臨床心理士自らが「耳の痛いこと」を話していかなければならないと思う。この場合には、精神科医師、特に小児精神科医師ということになるのだろう。

近代になって、平和な世の中が続くと徐々にシステムが整備されてくる。システムは、効率を目指し、汎用性を目指す。

ところが、精神科の領域は違うのだと、この著者たちは言っている。そうだと思う。それは、個人個人のそれぞれのことに向かうことなのだ。

診断名は、その人の人生を語らない、その人の過去を語らない、そして、その人の可能性を語らないのだ。

そのようなことが重要なのだと、語ってくれている本だと感じた。そして、これらのことは、臨床の場面で、捨て去るわけにはいかないものだと、理解しなければいけないと思う。

 

臨床心理士の育成

著者のひとり小林医師が臨床心理士の育成に携わってきたのだという。その際に、面接場面の陪席が教育手段としてたいへん重要なことであると指摘している。たいへん同感している。

人のカウンセリング場面を見ないで、自分独自でカウンセリングを作り上げることはできないのだ。

しかし、いろいろな臨床心理士にどの程度そのような教育を受けたことがあるのか聞くようにしているが、機会は限られているようなのである。これは、重要な課題。

 

DSMへの批判

医師によるDSMへの批判をあまり聞く機会がなかったので、このところだけでも読む価値があったと思う。

DSM-Vがリリースされたが、まだしっかりと読んでいないので、今後読んでいかなければ。

 

個人的な体験、経験の重要性

この対談集を読んで思ったのは、個人的な体験や経験って本当に重要なのだと思う。体験や経験そのものを人に明確に伝えることなどできないが、その中からつかんだ言葉は貴重なものだと感じられる。

年を取ってからしかいえないことがあるのかも知れない。年配の人にもっと語ってもらうことの価値をもっと見出すべきなのだろう。

しかし、それは、その人が自分でつかみ取ろうとしてきた人なのか、ただ世の中にある正統化された知識を再生産してきただけなのかという視点で、フィルターをかける必要もあることなのだろう。

読む価値のある一冊。

 

 

子どものこころを見つめて──臨床の真髄を語る
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