Mad In America(アメリカの精神病)

ロバート・ウィティカ(Robert Whitaker)

 ロバート・ウィティカは、精神科治療に関する既存の研究を調べて、その有効性を検証するようなレポを書いています。

 その動機として、自分の家族に精神疾患がいたとか、自分自身がそのような疾患を患ったわけではないと本人は説明しています。仕事として、医療ジャーナルの編集に携わったことがあり、精神科治療に関する研究に対して大きな疑問が生じたということでした。

 最初の代表的な著作は「Mad in America(アメリカにおける精神疾患の治療の歴史)」です。こちらはまだ翻訳されていません。

 

 第2作目となる「Anatomy of an Epidemic: Magic Bullets, Psychiatric Drugs, and the Astonishing Rise of Mental Illness in America」は、『心の病の「流行」と精神科治療薬の真実』として、訳されています。

 私は、こちらの方は読みましたので、最初の本を読みたいと思っていたところで、やっと読み始めることができました。

 

Mad In America(アメリカの精神病)

 『心の病の「流行」と精神科治療薬の真実』では、いわゆる「心の病」が特定の薬が認可され導入されている時期と重なり合っていることを指摘しています。つまり、「心の病」が増えているのか、その薬を使用したいがためにその診断名を増やしているのかという倫理的な問題を浮き彫りにしようとしています。

 そして、もっとも懸念するべきことは、特定の薬によって誘発される症状(別の疾患)があるのではないかということを、既存の研究から明らかにしようとしています。つまり、医原病の可能性を検討しているのです。

 「Mad in America」では、精神疾患の歴史を振り返り、アメリカで、狂気をどのように扱ってきたのかについて焦点をあてて説明しています。

 まず、1800年代にクエーカー教徒が、精神疾患を患った人たちを、「人」として接し、敬意をもって治療した過去があることを明らかにしていきます。そして、それが、どのようにロボトミーや、インシュリン治療、電気治療のような、手段に置き換わっていったのかについて説明していきます。

 そして書籍の後半では、薬物治療の登場。それが、どのような歴史的変遷を経て、今のように第一選択治療手段として受け入れられるようになったのかについて述べていきます。

 

「科学」という名の元に

 近代に入って、薬は科学という名の元に、開発され検証され、適応されるというのが原則です。

 ところが、「Mad In America」が明らかにするのは、精神科治療においては、公正にその科学的姿勢が貫かれていないということです。その内容は、ショッキング、スキャンダル、非倫理的というものです。

 副作用を患者にしっかりと説明してこなかったという事実。投薬治療によって、改善してきていない領域があることを認めてこなかった事実。製薬会社からのお金がからんでいるという事実など。

 

どのように読んだらいいのだろうか?

 私は個人的に何人もの精神科医を知っています。また、精神科でも勤務したことがあります。そのような人々は、患者を治療したい、よくしたいという気持ちを本当にもっていたと信じています。

 しかし、現代社会における精神科治療のあるべき姿が、より権威のある人々から提示されている以上、それに反するような方針はとれないと思います。

 この「Mad in America」では、そのレベルから、つまり正統性を持つとされる精神科治療の基本方針から見直す必要があるのではないかと、読者に訴えてくるのです。

 私は、まだよく判断がついていません。しかし、ロバート・ウィティカの冷静で、既存の研究を丹念に調べ上げ、それを紹介するような文章を読むと、信じるに値するところがあると思えます。

 精神病・統合失調症に対する治療は、私は無知ではないと思っていますが、専門外です。そのため、軽率な判断はしたくないと考えているところです。

 

翻訳が必要です

 『心の病の「流行」と精神科治療薬の真実』と同様に、こちらの本も翻訳されるべきではないかと思います。今の私には余力がありません。誰かしませんか?

 

Mad in America cover