読了「サビカス キャリア・カウンセリング理論」

マーク・L・サビカス著 「サビカス キャリア・カウンセリング理論」を読みました。監訳者の平木典子先生に頂き、大変うれしく、できるだけ丁寧に読みましたので、時間がかかってしまいました。また、このブログに感想を書く際に、少し自分の中で寝かせないとかけない部分もありましたので、読み終わりましたのは、このブログを書く10日ほど前です。

 理論的な側面

 本書の内容を読んでいくと、キーワードとなる概念を表現する言葉に馴染みがないと、意味を把握していくのが難しいと思いました。徐々にその言葉に慣れていくのですが、その言葉がどのようなことを意味するのかは、私の中でまだしっかりと浸透してきていません。

 また、この理論を支える社会構成主義を、ナラティヴ・セラピーから取り組んできた私にとっては、いくつかの言葉が意味することの差異に対して、自分なりの理解を少し調整しながら読まないといけないという側面もありました。

 だた、キャリア・カウンセリングが、焦点とすべきは、その人のアイデンティティにまつわることなのだ、ということについては、共感できたところです。

 実際的な側面

 私の予想とはずれていたのは、この理論による実際のカウンセリングが、かなり構造化されているものであるということでした。

 まず、「あなたがキャリアを構成していく上で、私はどのようにお役に立てますか?」という質問から入り、最初の導入的な会話をおこなった後、次のようなことを尋ねていきます。(1)自分のロールモデル、(2)購読している雑誌(情報源)、(3)好きな本、(4)指針となる言葉(自分のモットー)、(5)幼少年期の思い出です。相談に来た人のこのような側面が、その人のアイデンティティについて何を語っているのかを解釈していきます。

 このような解釈を提供するのは、カウンセラーの役目となるようです。そのため、上のような情報を引き出し、それぞれのことが意味することをクライエントと探索するのですが、最終的なまとめはカウンセラーがします。そして、そのまとめについて、どのように感じたのかなどのフィードバックを受け取るようです。

 この部分は、たぶんカウンセラーの技術とか経験が要求されるような気がしました。また、クライエントが思ってもいないようなまとめを提供したときに、クライエントとのギャップをどのように取り扱っていくのかについても、経験が必要なのでしょう。

 理論的な側面に関しては、その意味を酌み取り、自分の中に浸透させていくまでには、他の文献も読みながら、時間をかけていく必要があると思うのですが、サビカスのいうキャリア・カウンセリングで、何をするのかについては、大変明確な構造が提供されています。

 つまり、背後の理論がうまく理解できないとしても、実際何をしていけばいいのかについては、多くの人が理解できるし、実践につなげていけるのではないかと想像しました。

 日本のキャリア構成

 キャリア・カウンセリングは、私の畑違いです。正直、キャリア・カウンセリングの本を真面目に読んだのはこれがはじめてです。

 読んで、まず思ったのは、日本の社会構造は、個人個人のキャリアを構成あるいは発展していくことを許容するようになってきたのだろうか、という疑問です。いろいろな状況を想像しないといけないと思うので、思いつくままに書いてみます。

 私が大学を卒業し就職する際に、何をしたいのかの希望を持っていましたが、それなりに大きな企業に就職するということは、その希望をかなえることにはつながらないということでした。だって、どの部署に配属されるのかなんて、就職の段階で聞かれてもかなえられるわけではなかったですし。そのため、会社を辞めるという選択をする同期入社の人もいました。

 また、私がその会社を辞めるという段階になって、もし今の部署が気に入らないのであれば、他の部署に異動することもできるというオファーももらいましたので、交渉の余地があるのも理解できます。

 しかし、傍目でしかわかりませんが、公務員にそんな余地が余りなさそうな気がします。

 正社員の道を諦め、自営業や派遣であれば、自分に合ったもの、自分がしたいものをしていく選択肢がある可能性がありそうな気がしますが、安定、福利厚生、厚生年金などと引き替えにしないといけないのかな?

 いずれにしても、今ニュージーランドにいて分かるのですが、人材の流動性という点に関して、日本社会と比べかなり自由です。同じところに10年も勤めたら長いと思われたりしますので。それを受け入れる社会構造があるのです。職場を変えることは、自分のキャリアを構成していく上で不可欠なものと思われますし、その人の経験が多彩であるという点で、評価されます。これは、北米も似ているのではないかと想像できます。

 すると、日本の方を相手にする場合には、カウンセリングという場でどのようにキャリアを積み上げるのかという将来的な方向性だけなく、自分が取り組んできたキャリアにまつわる意味合いをどれほど豊かに語れるようになるのか、そして、それによって自分の積み上げてきたものを把握し、自分の今までのキャリアに向かう姿勢をより価値のある、意味のあるものとすることが、重要になるのではないか、そんな想像をしています。

 それから、日本という社会は、何の業種に就くのかという視点も重要なのでしょうが、どの会社を選択するのかという視点も重要そうな気がします。

 畑違いですので、自分の想像できる範囲が限られている気がします。今度、日本に帰国する際に、産業カウンセラーの領域で働いている方とお話しする機会が持てそうなので、この辺のことについてもっと聞いて見みたいと思います。

 自分のロールモデルや、好きな本、モットー

 自分のロールモデルが誰かのか、それはどうしてなのか、という会話は大変興味深いですね。誰か、私にこのようなことを尋ねてくれるのであれば、いくらでも話すことができそうだと思いました。そして、それが、私がどのような所を目指したいと思っているかについて、語ってくれるところが多々ありそうな気がします。

 購読している雑誌や、好きな本、モットーなどについては、時代と共に質問の仕方を変えないといけないのかも知れません。自分が雑誌を購読しなくなって久しいです。雑誌の販売部数がかなり減少していることを見れば、これは私だけのことではないでしょう。

 また、日本人に聞くのであれば、好きな漫画やアニメも含めたいですね。良質なものがたくさんあります。この領域が重要だとする理論は、西洋人に任せておくことができませんので、日本人が取り組む必要がありそうです。

 モットーに関しては、今の若い方がどのようなことを挙げるのかについて、すごく興味があります。世代ごとで、好きなモットーでどのような違いがあるのか、男女間ではどうなのか、興味が膨らみます。今度時間のある時に、どのような研究があるのかちょっと調べてみたいです。

 書籍として

 「サビカス キャリア・カウンセリング理論」を読み終えて、もう一度最初からパラパラとめくってみると、重要だと思ったところにひいた蛍光ペンの線がかなりあることに気づきました。それだけ、価値があるところがあったのかと思います。

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