佐高信と鶴見俊輔との対話で

この手のタイトルは自分でお金を出して読む気にはならないのです。しかし,縁があったのか,その時に手元にあり,時間もあり,読んでみようという気になりました。実際,それほど感銘を受けたような部分はなかなったのですが,鶴見俊輔の対談で鶴見俊輔が語った部分が面白いところがありました。

「イシという人がいます。これは今世紀の初め,北米で石器時代の生活をしていた。最後に五人ぐらいで暮らしていたのが死に絶えちゃって,一人っきりになった。それで,ある時自分の決断で,西洋文明の都市に向かって歩き出す。」

その初期に出会ったのが文化人類学者のアルフレッド・クローバーであるという。このときに,彼はこのイシという人が偉い人,ノーブルマンであると認める。しかしその結果,次のような悩みが生じるという。

「こういう偉大な人間を苦しめて,つぶしてきた近代文明とは何かという問題なんですよ。それにうちひしがれて,悩みに悩む。それで死んでしまうんですけど,クローバー夫人にだけは話すんですね。」

その夫人がイシの伝記を書くようになる。そのことを娘に語っていくと,「娘はその,クローバーのうちに充満していた悩みとか気配を継承するんですね。それで娘が書くのが『ゲド戦記』です。」

「イシの世界は男性優位だけど,それを転倒させた女性優位の未来,イシが過去の人間で忘れさられた人間なのを,娘の段階になってそれを転倒させるんです。人類の未来に向かって,驚くべきドラマがその一家の中にあるんです。」(p.101-102)

 

維新時,エディンバラの工科大学に,井上勝に少し遅れて日本人がいた。ものすごく勉強したそうで。そこに,勉強が嫌いの有名建築家の息子がいた。その日本人をみて,どうしてそんなに勉強するのか聞くとたどたどしい英語で答えてくれた。

「自分の先生は吉田寅次郎(吉田松陰)といって,こういう人で,獄死するときまでちゃんと勉強していたと。」 「それでびっくりするんだね。日本人は死ぬまで勉強するのかと。それが彼に注ぎ込まれて,彼は日本国外で最初に吉田寅次郎の伝記を書く。それがスティーブンソンです。『宝島』『ジキルとハイド』の作者ですね。」

 

このような話は非常に興味をそそられます。

こいつだけは許せない! こいつだけは許せない!alt
佐高 信

徳間書店 2000-03
売り上げランキング : 831578
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る by G-Tools