ナラティブ・セラピーのアウトライン By マイケル・ホワイト(難解)

ナラティブ・セラピー Narrative Therapy

近年注目されているセラピーのための技法にナラティブ・セラピーというものがあります。思想的な背景にポストモダニズムおよび社会構成主義(Social Constructionism)を持ちます。ここでは、このナラティブ・セラピーについて、いろいろなセラピストの概念を引用することで、説明していきたいと思います。

まず始めに、「物語としての家族」の共著者、マイケル・ホワイトの説明を紹介します。ご注意いただきたいのは、マイケル・ホワイトの文章スタイルは英文でも特異であるうえ難解です。これを翻訳してどの程度の意味を汲んでいただけるか自信がありませんが、ナラティブ・セラピーを学んでいくうえで必要であると思い掲載しました。

ナラティブ・セラピーのアウトライン By マイケル・ホワイト

http://www.massey.ac.nz/~alock/virtual/white.htm

1. ナラティブ・アプローチの中心は、人々の経験する人生に対しての各自の表出・表現(Expression)に焦点を当てていくことである。

2. これらは、生活している世界について人々が経験を表出・表現したものであり、生きた経験へのすべての表出・表現は人々に解釈行動(interpretive acts)を要求する。

3. 人々が世界における経験に意味を与えることが出来るのはこのような解釈行動を通じてである。解釈行動は、人生に対する人々の経験を自分に対しても他人に対しても分別のあるものとする。意味は経験の解釈以前には存在ない。

4. 経験に対する表出・表現は、意味や経験の基本単位となる。人々の人生に対する表出・表現を考察すると、意味と経験は不可分のものである。

5. 経験を解釈する行為は、理解するための枠組みを供給している解釈の供給源にどれだけ人々が依存しているかによって変わりうる。

6. 表出・表現は人生の構成する。表出・表現は人生が形作られるうえで、実際的な効果をもたらす。それは次のような点に置いてである:

◇ 表出・表現は生きている世界を構築するので、それらは経験とそれに続く表出・表現を構成する。

◇ 表出・表現は絶え間ない生産の状態に有り、これらの生産は生活を変えうる力がある。

◇ この世における行動(action)は、解釈の過程から生じる意味の特殊性によって導かれる行動の特殊性?意味の上にたって予測される。

◇ 表出・表現は文化的な背景を有する。文化的に決められた人生に対する知識や行動によって表出・表現は理解される。

7. 意味をなすこと、経験に対して意味を与えることは、次のような点において関係的に生ずる結果である:

◇ すべての解釈行動は理解するための枠組みを必要とする。ひとつは同様な経験をした時の背景を特定の経験に当てはめる事であり、ひとつは人の生活の中で起る特定の出来事を他の関係に照らし合わせててみることである。

◇ 出来事に対する人の経験は、時間軸にそって表される出来事の進行のなかに位置付けられるため、直線性がいつも想起される。

◇ 地域社会に対して関連が有り、なおかつ、その地域社会によって共有される意味の中を人々は行き交う。

◇ 経験に対する意味付けは、曖昧性および、あるいは不確実性が、既に確立された手続きによって、最初に調整される。

8. 人々がそれぞれの人生を表出・表現によって形成し、それを再形成する様な場において、表出・表現は「学問」的な問題ではない。表出・表現はいくつかの経験の静的な生産物と考えることはできない。表出・表現は人生の領域の地図ではなく、それが生きられているような人生の反映でもなく、世界の鏡でもなく、実際に何が起っているかの外側にある人生に対する見方(perspectives)でもない。

9. 物語が持つ構造は、日々の生活の中における人々に対する理解への基本的な枠組みを規定する。特定の主題に従い、時間軸に応じて展開された次々の起る生活での出来事を人々がつなぎあわせる枠組みである。

10.直線上の因果関係は、物語が持つ枠組みの優勢的な特徴である?出来事は線上の連続的なものとして取り入れられるため、それぞれの出来事は引き続いて起る出来事に対する可能性の基礎となる。

11.形式的(理論的)システム(Formal)の分析とナラティブ(Narrative)分析の比較

◆ Formal 普遍的な生命に対する説明及び、神秘的なものを取り除いた本質主義的な自己という概念(the notion of the self)で構築される人間の普遍的な本質に対する説明を確立すること。

◇ Narrative 主観的な矛盾を含む経験及び、多重的な意味合いを持ち、神秘性とどめた自己という概念(the notion of a self)を言い表すこと。

◆ Formal 人生を平坦で「モノグラフィック的な(限定された分野をテーマとする論文の様な)」説明を生産すること。この説明によって起る出来事を予想可能なものとする。

◇ Narrative 多重的なストーリーで構成される人生の概念に対して話しかけていくこと。

◆ Formal ユニークな事柄によって惑わされないために、普遍性を求める。

◇ Narrative 普遍性によって惑わされないために、ユニークな事柄を求める。

◆ Formal 規範を重んじ、予期できないものを無視する。

◇ Narrative 予期できないものを重んじ、規範を脱構築(deconstruct)する。

◆ Formal 自己や文化の支配的な概念を再生し、伝達する研究を推進する。

◇ Narrative 自己や文化の支配的な概念に対して、再度働き掛け、ユニークな(既成の概念の捕らわれない)事柄を講ずる機会を供給する。

12.構造主義的(structuralist)分析とポスト構造的な(post-structuralist)ナラティブ(narrative)分析の比較

◆ Structuralist 人生は、より深い要素あるいは力が表面的に現れてきたものであると考えられる行動(behaviour)の点から説明される。

◇ Narrative 人生の経験への表出・表現は、人生に対して建設的である行動(action)として解釈される?これらの表出・表現は何かが起っているというである(these experiences are what it is that is ‘going on’)。

◆ Structuralist 行動(behaviour)がどのような形で表出しているものであろうとも、その探求は「専門的な知識」を有している者と、表面的な行動に対して高度に特殊な変換規定(highly specific transformational rules)を適用できる者によって行われる。人生の表層における行動を解読するにあたって、このような規定や手順を応用することによって、行動という現象の「真実」を明らかにする。

◇ Narrative 主観的な経験の表出・表現とこれらの表出・表現からの実際的な影響の理解は、行動(action)に伴った経験の意識を通じて確かめられる。これは豊かか、あるいは、厚みのある描写(‘rich’ or ‘thick’ description)に貢献する主観的な経験に対する探求である。

◆ Structuralist 表層と深層の概念は対比され、並列される。

◇ Narrative 厚みのある描写と軽薄な結論が対比され、並列される。

13.ナラティブ・セラピーとは:

◇ 人々の人生についての好ましいストーリー(preferred stories)を語りそして語り直しす(telling and re-telling)ため、実行しそして実行し直すための選択肢である。

◇ 人々の人生においてユニークな、矛盾を含んだ、偶発的な、そして時には常軌を逸した出来事をオルタネーティブな現在(alternative presents)として意義深いものとすることである。

◇ 人々の人生におけるこのようなオルタネーティブな現在を通じて、過去の再見直しと再生(a re-engagement and a reproduction)をすることである。再見直しと再生はオルタネーティブな現在を共通のテーマで結びつけ、過去の関連した経験とを結び合わせる。再見直しと再生は、「後知恵の知恵’wisdom of hindsight’」を呼び起こす。

◇ このような表出・表現を形成するオルタネーティブな知識や技術を探求することと、文化的な歴史と技術や知識の所在を確認することである。これらはしばしば文化に存在する劣った知識や技術として受け取られている。

◇ 人生に対するオルタネーティブな知識や技術によって知ることの出来る行動(action)の特殊性と関連している人生への提案について探求することである。

◇ 人々がしていることに対する理解を人々の意識の中に喚起するような厚みのある描写 (thick description)についてである。望み、気まぐれ、気分、ゴール、希望、意図、目的、動機、抱負、情熱、関心、価値観、信念、空想、コミットメント、気質などの概念の実施についてのことである。

◇ 人々の現在についてのオルタネーティブなストーリを人々の過去とリンクさせる豊かな描写(rich description)についてである。人生を時間軸にそってストーリーを結び合わせていくことである。

◇ 人々の過去、現在のオルタネーティブな物語を他の人の人生のストーリーと結びつける豊かな描写(rich description)についてである。目的、価値観、コミットメントを共通に持つテーマに沿って、人生間のストーリーを結び合わせていくことである。

◇ 語りそして語り直し(telling and re-telling)、そして、語り直しの語り直しをするの環境を構成する豊かな描写(rich description)についてである。メタテキスト(meta-text)の生産の活動とメタからメタテキストのテキスト (texts that are meta to meta-texts)についてである。

◇ 表出・表現のための、実行するための、そして、それに伴う語りのための基礎としての厚みのあり、豊かな描写を確立するためもプロセスである。

考  察

上記のアウトラインをなかなか理解しにくいと思われるが、要点としては、クライアントが自分の人生に対して、どのような表出・表現 (Expression)を持っていくかを考察していきながら、その表現には収まりきれないストーリーに焦点を当てていくことである。焦点となるストーリーは、「ユニークな結末」であり、既成に存在する個人の物語には当てはまらないものである。このようなストーリーに対する探求?語りそして語り直しを通じて?オルタネーティブな物語を生みだし、その物語が新たな表出・表現、実行、そして再構築された個人の物語を産むとしている。

このようなコンセプトを持ちながら、どのようにして実際のセラピーに当てはめていくかについては、実践的な面接技法としては以下の書物が参考となる。

アリス・モーガンAlice Morganの”What is narrative therapy? An easy-to-read introduction”

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