『心の病の「流行」と精神科治療薬の真実』を読んで
本書は、統合失調症、うつ病、双極性障害に対する投薬治療について、過去の研究結果を膨大に引用しながら、検証を進めていくものです。
この著作の背景には、著者が抱く単純な疑問があります。それは、なぜ精神病と呼ばれるものが、近年これほど増えていくのかということです。それが、本のタイトルにも垣間見ることができます。『心の病の「流行」』ですね。
著者が調べていくこと、いくつかの大きな統計的事実に遭遇します。それは、1)この流行は投薬治療薬の使用に密接に関係しているということ、2)以前は社会復帰してた疾患が現代社会では一生涯にわたる疾患となっているということです。
私の思い込みは、以前は社会的に受け入れてくれる余裕があったので、たとえば、統合失調症が治らなくても、社会の中で生きることができるというものでした。
しかし、ロバート・ウィタカーが示すのは、初めて症状を示すこと(発症)があってから一度収まり、その後、症状を見せることがない「患者」が以前にはいたのだということです。この点は、真剣に検討されなければならないことです。
著者は、これらのことを理解するために、統計データや科学的な研究を探索していきます。
その結果、見えてきたもの。それが、この本によって明らかになっていくのです。ページ数も多く読み応えがありますが、その内容は、かなりショッキングです。
私は、この本に対する反論、つまり、この本を丸ごと信じてはいけないのだという意見も求めたくなるぐらいでした。もし、丸ごと信じるとすれば、それは、スキャンダルということになってしまうのです。精神科治療に関わる専門性に対して、不信ということになるのです。
なぜならこの本が明らかにするのは「医原病」としての精神病だからです。
自分の直感でこの本は読んでおく必要があると感じ、読み始めたのですが、その判断は間違っていなかったと思います。おすすめという程度のものではなく、読んでおく必要がある本であると思えます。
また、オープンダイアログについての本があまり翻訳されていないのですが、この本でも少し説明しています(第5部)。日本語で読める貴重な資料となっていると思います。
心の病の「流行」と精神科治療薬の真実 | |
ロバート・ウィタカー 小野 善郎
福村出版 2012-09-19 |
第1部 流行病(現代の疫病
事例からの考察)
第2部 精神科治療薬の科学(流行病のルーツ
精神医学の「魔法の弾丸」
化学的アンバランスの探求)
第3部 転帰(露呈した矛盾
ベンゾジアゼピンの罠
慢性化する気分障害
双極性障害の急増
解き明かされた流行病の謎
子どもにも広がる流行病
苦しむ子どもたち)
第4部 妄想の解明(イデオロギーの台頭
語られた筋書きと、語られなかった筋書きと
利益の勘定)
第5部 解決策(改革の青写真)