ナラティヴ・セラピーとは何かということを「簡単に」説明することが難しいなと感じています。それは,ナラティヴ・セラピーが難解なものであるという意味ではなく,根本的な部分はある程度共有されているものの,実践においては人それぞれ異なっている部分があるからです。この根本的な部分は,ノウハウ的な技法の知識ではなく,思想的,哲学的な傾向を持っているので,実践において何を意味するのかが腑に落ちるまである程度時間がかかります。
たとえをもちいれば,織物の糸を同じものを使ったとしても,できあがる布の模様は人によって異なるという表現も可能でしょう。
ナラティヴ・アプローチは,その根底に流れるものを理解し,その理解に基づいてそれぞれの持っている「好み」「経験」「興味」「能力」を組み合わせて,実践していくものです。そのため,他の人の技法を丸ごと自分が使おうとしても,どうしてもしっくりいきませんし,何よりもうまくいかないと感じるのです。「自分なり」の部分が必要となるでしょう。
ここでは,皆さん以外の「他者」が定義したり,記述したもの「説明」をある程度掲載していきたいと思いますが,それがどのような意味となるのかを考えていただけたらと思います。
それぞれの説明は,織物の一部の色,織物の横または縦糸,一部の模様しか表現することしかできません。その全体像のあり方は,皆さんの中にしかできません。それは,私の織物の全容(全体像と細部)をそのまま皆さんにお渡しするすべを持ち合わせていないからです。