British Psychological Society(英国心理学会)は、昨年11月に「Understanding Psychosis and Schizophrenia(精神病と統合失調症への理解)」という180ページにわたる資料をウェブ上で公開しました。サイトから、誰でもPDFをダウンロードできます(こちらから)。また、その要旨を訳してみましたので、よろしければ、こちらも参考にして下さい(こちらから)。
本書の内容は、もしかしたら、精神科治療に関わっている人ほどショックを与えるかもしれません。それは、幻聴という症状は、「統合失調症」という疾患に固有のものではないということを明記しているからです。
そのため、幻聴(hallucination)という言葉も本書では使っていません。「声が聞こえること」という言葉で、論旨を展開しています。
また、治療を開始するにあたって、統合失調症という診断を必要とする、現状のシステムに対しても批判的です。
その治療については、急性期の投薬治療の必要性については、有効性を認めつつも、長期にわたって服用することに対する危険性を提唱してきます。
治療方法で強く推奨しているのは「Talking Therapy」、つまりはカウンセリングです。それは、本人の立場から理解してあげられるような姿勢で、相手と話をすることの重要性です。
手法に関しては、精神病に対するCBT、ACT、マインドフルネス、トラウマ、ナラティヴなど、いろいろな手法に対して、簡単に検討を加えています。
ナラティヴ・セラピーを検討する際に、DSMに対する批判をかなり読み聞きしていたのですが、「精神病」や「統合失調症」の概念を揺さぶるような書物には、私のかなり考えさせられています。
精神科治療が転機を迎えようとしている、いや迎えなければいけないのだろう、という気持ちにさせられる本でした。
訳して、多くの日本の読者に読んでもらう価値のある本だと思います。