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PTSDの出現率

2011年3月11日は、私たちにとって忘れがたい日になるでしょう。巨大地震とそれがもたらした津波によって、甚大な被害がもたらされましたからです。

私も、少しでも何かできないかという思いもあり、時間の都合もつけることができましたので、2ヶ月半の間現地に入り、心理的な側面において対人援助の仕事に当たりました。

このような時に、専門職として想定していかなければならなかったのはASD(Acute Stress Disorder: 急性ストレス障害)とPTSD(Posttraumatic stress disorder: 心的外傷後ストレス障害)という症状に対する対応です。事前にテレビ報道以外に、現地の様子を知るすべはありませんでしたが、現地の人たちが受けた衝撃のレベルは、凄まじいものであると想像することは容易いことでした。

このぐらいのレベルになると、PTSDの診断基準の一つである「危うく死ぬまたは重症を負うような出来事」(TE: Traumatic Event、トラウマ体験)を現地にいるすべての人が経験したといっても過言ではありません(最近の診断基準では、メディア報道を見ていた人もその対象に入ります)。そのため、すべての人がPTSDという疾患状態に陥ってしまうリスクを抱えたという理解をしてしまうのです。

しかし、実際に現地に入っても、PTSDとして扱わなければいけないような状態に遭遇することはありませんでした。これは、現地の人の苦しみ、辛さ、苦痛が無いという意味では決してなく、疾患レベルとしてのPTSDに出会うことがなかったのです。

私が現地に入ったのは、2ヶ月ほどのことでしたので、震災直後の様子を聞くと、ASD(Acute Stress Disorder: 急性ストレス障害)と見なしていいと思える症状は聞いて知ることができました。また、身体的症状が出ていた人もたくさんいたようでした。

ASDは、トラウマ体験を受けて、解離性症状、フラッシュバック、回避過覚醒が生じるというものです。そして、このような症状が、最低2日間、最大4週間持続し、外傷的出来事の4週間以内に起こるというものです。PTSDとの差は、症状の違いではなく、症状が発生する時期と期間に見いだすことができます。つまり、PTSDは、ASDで想定されている期間の後にも残ったり、または新しく出現するというものです。

ASDについては、あれだけの規模の災害を体験した人であれば、これに近い症状が出てくることは不自然ではなく、当然のことであると見なすことができるでしょう。

ところがPTSDはまったく別の側面が見えてきます。まず、ひとたびPTSDとなると、あまり有効な治療方法もなく、PTSD症状に陥ってしまう人も苦しみますし、その治療にあたる人も困難を抱えることになります。PTSDの概念は、後までしつこく残りますし、たとえ今なくても、数年後に出てくる可能性まで、私たちに示唆しているのです。

このPTSDを現地でどのように扱っていいのか、実際分かりませんでした。ただ、現地の人に対する講演などで、そのような可能性があるので、その兆候が現れた場合には、是非、相談して欲しいと伝えました。その際に、その兆候が現れることは人の弱さを示すものではないとも付け加えました。勇敢で、強靱な戦士もそのようになる可能性があるのだ、と。

PTSDについては、自分でもしっかり勉強する必要性を感じ、現地を離れ、やっと最近、落ち着いてPTSDの本に目を通すことができています。その中で、次のような箇所を見つけました。

“Clearly, most people do not develop PTSD or other emotional disorders, even with direct and prolonged exposure to threatening events. Thus, trauma exposure appears to be a necessary but not sufficient condition for the development of PTSD, with distinct features of individuals determining who develops the disorder (McFarlane, 1999; Shalev, 1996; Yehuda, McFarlane, & Shalev, 1998a)” (Bowman & Yehuda, 2004)

「明らかに、驚異となる出来事に直接的、そして長期にわたってさらされようとも、多くの人は、PTSDやその他の感情障害を引き起こさないのである。従って、トラウマにさらされることは、誰がこの障害を発展させていくのかを決める個人的な特徴と共に、PTSDの発展の必要な条件であるが、十分な条件とはならないのである」

ざっと読んだ中では出現率は、数パーセントいう数字のようでした。しかし、この本で扱っているのですが、PTSDという疾患の診断についても問題が含まれいるため、もっと検討していく必要もありそうです。

現地で、このような出来事を体験した人を「PTSD予備軍」として見なすことは、臨床上の倫理的な問題を含んでいますし、なりより失礼な態度ではないかと思うのです。現地に入るものとしては、PTSDという疾患の正確な知識を必要としているのであって、PTSDという概念に煽られて、焦らされることではありません。現地で支援する人も必要でしょうが、後方でしっかりとした情報提供をしてくれる人も必要とされていると感じたところです。

現地の人の苦しみ、悩み、苦悩を理解することは、PTSDという概念に依らなくても可能だということでしょう。PTSDの概念の問題点についても興味深い指摘がありますので、いつかまとめたいと考えているところです。

 

Reference

Bowman, M. L. & Yehuda (2004). Risk Factors and the Adversity-Stress Model. In G. M. Rosen (Ed.), Posttraumatic ftress disorder: Issues and controversies. West Sussex: Wiley & Sons.

McFarlane, A. C. (1999). Risk factors for the acute biological and psychological response to trauma. In R. Yehuda (ed.), Risk factors for posttraumatic stress disorder (pp. 163–190). Washington, DC: American Psychiatric Press.

Shalev, A. Y. (1996). Stress vs traumatic stress: From acute homeostatic reactions to chronic psychopathology. In B. A. van der Kolk & A. C. McFarlane (eds), Traumatic stress: The effects of overwhelming experience on mind, body, and society (pp. 77–101). New York: GuilfordPress.

Yehuda, R., McFarlane, A. C., & Shalev, A. Y. (1998a). Predicting the development of posttraumatic stress disorder from the acute response to a traumatic event. Biological Psychiatry, 44,1305–1313.

 

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