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「100%正しい忠告はまず役に立たない」

臨床心理家の河合隼雄は、平易な文章で、実際に人生に有意義なことをいろいろと書いています。今日は、その一つを紹介します。

「ともかく正しいこと、しかも、一〇〇%正しいことを言うのが好きな人がいる。非行少年に向かって、『非行をや めなさい』とか、(中略)煙草を吸っている人には、『煙草は健康を害します』と言う。何しろ、誰がいつどこで聞いても正しいことを言うので、言われた方と しては、『はい』と聞くか、めちゃくちゃでも言うより仕方がない。」

この導入部に続けて、例えば、野球のコーチの「ヒットを打て」という忠告は一〇〇%正しい忠告であるが無意味である。しかし、決め球はカーブ でくるぞと言ったとき、それは役に立つと。ここで重要なのは、この忠告には曖昧さ、不正確さが含まれているのである。そして、忠告者の責任がつきまとうの である。

「それがはずれたときは、彼は責任をとらなければならない。」
「このあたりに忠告することの難しさ、面白さがある。『非行をやめなさい』などと言う前に、この子が非行をやめるにはどんなことが必要なのか、この子に とって今やれることは何かなど、こちらがいろいろと考え、工夫しなかったら何とも言えないし、そこにはいつもある程度の不安や危険がつきまとうことであろ う。そのような不安や危険に気づかずに、よい加減なことを言えば悪い結果出るのも当然である。」
「ひょっとすると失敗するかも知れぬ。しかし、この際はこれだという決意を持ってするから、忠告も生きてくる。己を賭けることもなく、責任を取る気もなく、一〇〇%正しいことを言うだけで、人の役に立とうとするのは虫がよすぎる。」

 

河合隼雄著、「こころの処方箋」、新潮文庫、平成10年

 

こころの処方箋 (新潮文庫)
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